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社内対談
システム調達におけるプロジェクトマネジメントとコンサルタントによる工程管理のあるべき姿【前編】

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 昨今のシステム調達では、プロジェクトマネジメントの重要性が強く認識されるとともに、発注社側でPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を組織し、そこにコンサルタントが参画し工程管理業務を担うケースが多くなっています。
 今回は『システム調達におけるプロジェクトマネジメントとコンサルタントによる工程管理のあるべき姿』をテーマとして、これまで様々なシステム調達のプロジェクトに参画した経歴を持つグラビス・アーキテクツの社員による対談の模様を前編・後編に分けてお伝えします。
 前編では、システム調達でのプロジェクトマネジメントのあるべき姿と、重要視されるQCD(品質・コスト・納期)の関係についてご紹介します。
  • 山田 大介(やまだ だいすけ)
    山田 大介(やまだ だいすけ)

    山田 大介
    (やまだ だいすけ)

    大学卒業後、外資系大手IT企業にてキャリアをスタート。主に官公庁システムの要件定義・設計・開発・運用・保守業務に従事し、システムエンジニア、プロジェクトマネージャとして多数のプロジェクトを手掛け、難易度の高い大型プロジェクトや、緊急対応案件を成功に導く。
    2012年、大手コンサルファームに移籍、公共コンサルティング部門の立ち上げを担い、部門の責任者に就任。ITコンサルタントとして、官公庁のIT系コンサルティング業務に従事し、エンジニア、プロジェクトマネージャとして培った知見を基に、「実効性の高いコンサルティング」に拘る。2018年4月にグラビス・アーキテクツ株式会社へ入社。2021年4月に取締役COOに就任、2022年4月に今後の事業拡大を見据えてホールディングス経営に移行、ホールディングス会社となるグラビス株式会社設立時に取締役に就任。

  • 葛西 哲郎(かさい てつろう)
    葛西 哲郎(かさい てつろう)

    葛西 哲郎
    (かさい てつろう)

    大学院修了後、航空測量会社にて地理情報システムの開発および自治体への導入に従事。
    その後、大手SIerに転職し、公共分野への技術支援を行う部署では、アーキテクトとして中央省庁を対象としたシステム導入に幅広く携わる。その後、社内異動に伴い某中央省庁の大規模システムの更改プロジェクトにおいて、重要なサブシステムの開発責任者としてプロジェクトマネジメントに従事。2022年、グラビス・アーキテクツ株式会社へ入社し、中央省庁および独立行政法人を対象に将来の情報システム基盤の更改に向けた調査や調達支援に携わる。

  • 山下 達哉(やました たつや)
    山下 達哉(やました たつや)

    山下 達哉
    (やました たつや)

    新卒でシステムエンジニアリング契約として客先に常駐、SE作業を主としている業務形態の会社に就職。当初1年間は金融系システムの運用保守に従事、翌1年間は別会社に出向する形で、自治体向けパッケージシステムのバージョンアップに際してのプロジェクトマネジメント支援およびテスト支援などを担当。その後、現・大阪事務所長の清水に声をかけられたことを機に、2014年よりグラビス・アーキテクツ株式会社へ出向、2017年に転籍。以降、中央省庁および独立行政法人を中心に各種支援業務を携わる。

「プロジェクトマネージャの経験」と「コンサルとしての立場、作る側としての立場」

葛西

 山田さんはシステムインテグレータ側のプロジェクトマネージャの経験が随分長いと聞いていますし、山下さんはコンサルタントとしてPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)としてプロジェクトに参画した経験が長いと聞いています。
 私はR&Dや開発側の経験が長くて、プロジェクトマネジメントに関わるようになったのは40代になってからでした。
 グラビス・アーキテクツは、このように出自の違うメンバーが集まって、コンサルタントとしてPMO業務を行っているわけですが、PMO業務を通じて改めてプロジェクトマネジメントって難しいなと思っていたので、皆さんが考える「良いプロジェクトマネジメントとはなにか」、をお伺いできればと思います。

 では、山田さんからこれまでの「プロジェクトマネージャの経験」と、「コンサルとしての立場、作る側としての立場」でどんなところが違うか教えてください。

山田

 システムインテグレータのシステムエンジニアとして10年ぐらい経験を積み、その後10年程度プロジェクトマネージャを務めていました。プロジェクトマネージャの経験の後半3年くらいは、トラブルプロジェクトのレスキューでしたので、自分で作るというよりは、炎上プロジェクトを立て直す方がメインでした。自分でゼロからプロジェクトを立ち上げて、ゴールを目指すという経験は7年くらいです。
 主には官公庁のシステムで、マルチベンダーのシステムの構築プロジェクトのプロジェクトマネージャが長かったですね。

葛西

 大規模プロジェクトで、人をまとめるとか組織をうまく動かしていくみたいな立ち位置でのプロジェクトマネージャですか。

山田

 そうですね。ただ、技術的には僕が一番っていう立場も多かったので、実際に手を動かすところは任せるんですけど、エンジニアにあえて喧嘩を売ってですね、要件定義や設計に関してはかなり口を出していました。メンバーからすると面倒くさいプロジェクトマネージャだったんじゃないかなと思います。
 システムのプラットフォームについては、パソコンからメインフレームまで一通り関わりました。
 PMO業務を請け負う工程管理事業者と、システムインテグレータのプロジェクトマネージャの立ち位置の違いで一番大きいのは、自分でシステムを作る立場なのか、作らないのかっていうところだと思います。
 究極的な話をすると、システムインテグレータのプロジェクトマネジメントが完璧だったら、本来は工程管理事業者なんていらないと僕は思っています。今の立場的にはコンサルタントなので、ちょっと自己否定というか自己矛盾的なところがありますが。
 実際にシステムインテグレータのプロジェクトマネージャだったときは、工程管理事業者、要はコンサルタントに対しては、それを君が言うのか、みたいに思っていたことが多々あります。だからこそ、「工程管理事業者のバリューはなんだ」と言うことを、我々としてはすごく考えて仕事をしていかなきゃいけないと思います。

葛西

 ありがとうございます、では山下さんお願いします。

山下

 大学を卒業して入った会社はシステムインテグレータですが、そこで財務系のパッケージシステムの開発や改修に2年程度携わった後、そのパッケージに絡んだプロジェクトマネジメントに2年携わりました。
 その後、グラビスに来まして、主に中央省庁様をメインに、LANシステムとか、中央省庁の職員の皆さんが使うシステム全般のシステム更改に向けた調達支援をやりつつ、調達支援の後続工程で、システム構築の工程管理を主にやってきました。

葛西

 ありがとうございます。工程管理事業者と、システムインテグレータのプロジェクトマネージャの立ち位置の違いや感じることは何かありますか?

山下

 山田さんがおっしゃっていた通り、システムを作る側と作らない側というのは一つ大きくあると思います。また、システム構築を実際にやるシステムインテグレータは、システムを作る当事者なので、僕のイメージだけで申し上げると、システムをどう作るかとか、自分の会社にとってどのようにやっていくかが、強く出てしまうケースがあるかなと思います。
 一方で、工程管理業者は、第三者の目線から見なきゃいけないのですが、お客様側の立場に立ってシステムを運用した後とか、そのシステムが実際にどう動いていくかっていうところをちゃんと見ながら、お客様側がシステムを実際に利用するときに、どういったシステムが本当に使いやすいのかとか、そういった部分を支援していくことが、最も重要かと考えています。そういったところでの立ち位置の違いはあるんじゃないかと考えています。

葛西

 ありがとうございます。
 私のプロジェクトマネージャ歴は長くなくて、40代半ばになるまでは主に開発に従事していました。その間はR&Dもやっていましたし、お客様への導入もやっていました。その中で僕はアーキテクトとして、モノづくりをきちんとやりましょうっていう立ち位置でした。プロジェクトに合ったシステムの仕組みを考えてそれを具現化することでプロジェクトの成功に寄与する、という考えです。大きい会社だったので、社内にもPMOがあって、いろいろ物申してくることが多くて。その時には「いやいや、今やらなきゃいけないのはそこじゃないんだよ」みたいなことを思っていました。
 ただ、今こういう立場になって、そういう人たちの助言が、厳しいけど役に立ったな、と思ったことも多々あります。それは、プロジェクトの状況をちゃんと数字や形で見えるようにしなさい、っていうこととか、大きなプロジェクトになればなるほど、プロジェクトがどういう状況にあるかって見えなくなることがある。それを見えるようにするためにこういうことをした方がいいよっていう助言は、すごく役に立ったなと思います。
 逆に、何が何でも当初計画に沿って行うべしとか、開発ガイドラインに沿って何々すべしみたいなのは、役に立ったなという思いがあまりない。現状を見て役に立つ対応策とかを一緒に考えて欲しい、と思うことが多かったかな。

良いプロジェクトマネジメントと悪いプロジェクトマネジメント

葛西

 今日は、良いプロジェクトマネジメントと悪いプロジェクトマネジメントってなにか、というお題ですが、この点に関して山田さんが気を付けていたことはありますか?

山田

 プロジェクトは計画段階で、成否の7、8割が決まると思っています。プロジェクトってピンボック(PMBOK(Project Management Body of Knowledge))にも「スタートがあってエンドがある有機性の活動、アクティビティ」と定義されている。だからプロジェクトマネージャがスタートする前に最初にやらなきゃいけないことは、ゴールまでの見通しをどれだけきちっと見えるようにしておくかだと思ってやっていました。しかもこれはプロジェクトマネージャにしかできない仕事だと思う。


 プロジェクト計画書って公共機関の案件だと、どこでも成果物になっているので、なんとなくみんな定型的なフォームに定型的な内容で作っているけど、本当はそうじゃなくて、ものすごく重要な位置づけにある。プロジェクトが始まる前にプロジェクトマネージャが脳みそをフル回転でプロジェクト計画書を作ることが僕は一番大事だと思っていました。「気を付けていること」はそういうところでしたね。ありとあらゆる可能性を開始するまでにどれだけ考慮できるか。
 僕は人をたくさん使う大規模プロジェクトが多かったので、プロジェクトがスタートした後に「これってどうだったんだっけ」とかいうと、何十人、何百人の単位で足を止めちゃうことになる。一日止めるとコストはどれだけ無駄になるのか、というところがすごく大きくて。だからプロジェクト計画書はものすごく気合い入れて作っていました。

 僕のプロジェクトに対するイメージって、スタートがあってゴールがある一本道なんですけど、プロジェクトマネージャはその一本道を先頭に立ってメンバーを従えて進んでいく、先導する人だとイメージしていました。見通しが甘いままスタートした場合、例えばいきなり目の前に落とし穴が出現すると、全員でその落とし穴にドンと落ちちゃうわけじゃないですか。だからプロジェクトマネージャはそうならないように、どれだけ出発する前に道中、ゴールまでの落とし穴を見通して、あらかじめ対応策をどれだけ考えられるか。つまりは、PMBOKのリスクマネジメントで言っているとおり、まずはリスクをどれだけ事前に識別できるか、その上で、回避だとか転嫁だとか軽減だとか受容だとか、そういったリスクの対応策をスタートの前にどれだけ考えられるかっていったところだと思っています。

 要はプロジェクトの計画段階でどれだけできるかってところです。そこを僕はすごく考えてプロジェクトマネージャをやっていましたね。そうすると、スタートしていきなりカオスになるとかは少なくともないはず。残りの2割とか3割は、自分たちがどうしようもない外部依存的な要因だとか事故だとか。特にマルチベンダーのプロジェクトだと、相手方が起因して何か起きるのはどうしようもないので。そういうところの2、3割をどうやって対応していくかっていうところが、次のプロジェクトマネージャの腕の見せ処なのかなと思っていました。

葛西

 ありがとうございます。その2・3割が問題プロジェクトの主な原因なのかなと思います。

山田

 だけど、シングルベンダーで自分たちがどうにでもなるプロジェクトだったら、基本的には8割、9割まで計画時点で想定しないとダメだと思う。外部依存ってほとんどないので。例えば、プロジェクト進行中に要件が変わったとかね。そういったことを僕はトラブルだとは思ってなくて。なぜならば、契約変更を変更プロセスに乗って対応すればいい話なので、それは別にトラブルじゃない。
 費用の問題ももちろんあるけど、計画した予算から出せるのであれば対応すればいいし、出せないのであれば、後々にやるか、何かとバーターするか。それも交渉の範囲内だと思う。だからシングルベンダーのプロジェクトのトラブルっていうのは、プロジェクトマネジメントの問題以外には僕はないと思っているんですけどね。

葛西

 山下さん、そのあたりで何か気になることあります?

山下

 山田さんがおっしゃった通り、計画段階は非常に重要です。僕がプロジェクト始める段階にするのは、スケジュール感や全体のマイルストーンの設定は当然なんですけど、このプロジェクトに関与するステークホルダーとか、その人の意思決定とか権限がどこにあるかを気にして整理するようにしています。
 というのも官公庁で多いのは、最終的に課長とかトップの方に行った段階で、「いやそれダメだよね」って言われるケースが少なくはないかなと思っていて。どのタイミングで誰に承認を取っていかなきゃいけないとか、全体のスケジュール感のマイルストーンからこのタイミングで報告しなきゃいけないとか、そういったところは最初の段階で整理しておく必要があると思います。
 その上で、構築事業者にお願いするときには、さっき言ったプロジェクトマネージャがどれだけ作業をイメージできて、どうやっていくかをどこまで想像できるかが非常に重要だと思います。
 そこで、彼らが作ったスケジュールを見たときに、当然、お客様側関係者の確認のタイミングとか、承認や合意を取るタイミングとか、そういったものを全部加味した形で全体のスケジュールになっていないと、実現性が無くなってしまう。そのようなところを注視しています。
 あと私が工程管理をやる場合は、大体要件定義から続けて工程管理をやるケースが多いです。プロジェクトに入ったばかりの構築事業者に、いきなりこのプロジェクト上の課題やリスクを洗って、対策とかどこまで考えているのって言っても、正直出てこないと思っています。そういったところはあらかじめ我々のほうでも、プロジェクトに入ったタイミングで一覧化して、調達時に事業者の方にお渡し、検討・管理いただくということは心がけています。

葛西

 立ち位置の違いが出ていますね。すごく面白いです。
 決裁権を持った人がプロジェクトを振り回すことってあるじゃないですか。それってどういうふうに対応するのが良いものなのでしょうか。これが良いっていう答えはないのかもしれないですけど、今までどういうふうに対応してきましたかっていうのを聞いてみたいです。

山下

 本当にトップの方から言われちゃうと、調整も難しいですが、担当者の方も振り回す人って結構多いんです。多分要件定義が、定まっていないのかもしれないのですが、そういったことを言う方は結構多くいます。
 単純にお客様が言うことが全て正しいわけでは絶対なくて。そういった場合にはまず、それが仕様に本当に書かれているのかっていうのはもちろん確認すべきことの一つではあるものの、その上で、それを本当にやるべきか、改めてお客様側とも調整が必要だと思っています。
 今やらなきゃいけないことなのか、それをやることでどんな影響があるのか。全てを受け入れるというよりもまずお客様と一回調整して、本当にやるべきかどうかを判断した上で事業者の方と調整に入るようにします。本当にトップの方から言われちゃうと、なかなか私たちから話せる相手でもなかったりするので、そういった場合は担当者の方がどう考えるかにもよりますが、資料などの説得材料を用いてご説明を支援したり、そういった対応をしますね。

山田

 担当者が振り回すタイプだと、担当者と調整してもダメな場合が多い。その場合はエスカレーションして検討いただくように働きかける。なんだけど、山下さんが言った通り、一番トップだった場合はしょうがない。そういうときはきっちり議事録残して、あとでそれをエビデンスにするか要件と照らして、要件を曲げているんだったら、それは変更ですよねっていうところの、ネゴシエーションはやるべきですよね。

葛西

 要件を曲げたのに、スケジュール期間内に終わらせてよっていうのは、なかなか無茶を言っているなと思うので。スケジュール調整とか、その代わりこの要件はいいよねって話になるのかどうかとか。そこはやってほしいからって無茶言うのは、いくら発注側でもさすがによくはないと思うので、この部分はしっかり調整するべきかな、と思います。

QCD(Quality/Cost/Delivery:品質・コスト・納期)の関係性について

山田

 僕はスケジュールを伸ばすっていうのが優先順位で最後なんですよね。時間はイコールコストなんで。だから必ずスケジュール内に収まるように、他のものとバーターにすることを最初にやるかな。

葛西

 スケジュールは最後ですね。

山田

 QCDってあるけど、あれって全然MECEじゃない。全てはコスト(C)に集約される。品質(Q)もそう、デリバリー(D)もそう。最後はコストにいく。そこがすごく重要。

葛西

 私もこれは思っていました。いつも、QCDって言うけれど。

山田

 横並びじゃないよね。

山下

 コストは逆に発注者側からあんまり見えない。請負契約とかだから、その金額の中でうまくやってよ、って発注者側は思いがち。あんまりそこって意識に至らないケースが多いなと。

山田

 でも受注者側はそこが一番気になるところだよね。

葛西

 発注者側はコストが自分たちには見えないから、期間内に良いものを作れともちろん言いますよね。それに対して構築事業者はコストを守りたいので、その制約の中で出来る範囲で、というのも判る。それに品質を落とすのもなかなか普通は難しいじゃないですか。だってエラーばっかり出して良いなんて絶対言わないし。

山田

 「品質」ってバクっとした言葉だと思っていて、これって発注者側と受注者側のレベルが全然違う。だからそのレベル合わせを最初にやらなきゃいけない。
 例えば、水も漏らさぬ完璧なシステムを目指すのか、ある程度不具合は許容してでも、とにかく早く稼働させるのが重要なのかとか。システムの性質によって違う。
 前者はミッションクリティカルなシステムで、時間とかコストとかを多くかけてでも完璧を目指さなきゃいけない。品質が何よりも重要なところだと思う。
 ただ後者は多少の不具合は問題ではなくて、とにかくタイムリーな稼働を求められるシステムだよね。例えば災害時にとにかく緊急的に情報を集めなきゃいけないシステムは、じっくり時間とコストをかけて品質を高めるよりは、翌日に稼働させなきゃいけないとか。対象システムが何かによって要求品質は変わるから、そのレベル合わせというか、コンセンサスを取るのが、最初にやっておかなきゃいけないことだなって、品質に関しては思うよね。

葛西

 「要求事項を満足している度合」はPMBPKでいう品質の定義ではありますけれども、例えばワインバーグ氏の定義だと、「誰かにとっての価値」が重要となりますね。

山田

 そうそう、そういうことだよね。

葛西

 私は感覚的には後者だけど、とはいえ、ちゃんとした一定程度の品質はもちろん、目に見えるバグがないことは当たり前としている。そのさじ加減だよっておっしゃっているのかと思いました。

山田

 そうだよね。ベンダー内でもその辺の違いってあるから、まずはお客様とよく話し合って、先に決めないと後で大変なことになっちゃうよね。

葛西

 山下さん、このあたりの話で気になることってあります?

山下

 品質で言うと、システムの特性に応じた対応やレベル感が重要だと思うんですけど、目に見えるバクがないことや一定レベルのテストをしていることは前提だと思っています。
 それを前提とした上で、成果物のレベルなどは、山田さんがおっしゃっていただいた通り、お客様側と「このプロジェクトではどういった成果物をどう作っていって、レベル感はこういったもの」ということを最初の段階から意識合わせしていくことが非常に重要だと思います。

葛西

 そうだよね。例えばこのドキュメントはそんなに厚く作らなくていい、とかそういう話で作業量を調整するとか。あとUIとかはもうあんまりいじらないで、パッケージだったらそのままいきましょうとか。
 山田さんの「QCDは一つの線じゃない」という話ですが、コストとデリバリーって強い依存関係があって、デリバリーを伸ばせば確実にコストは上がる関係にあります。品質は、最低限やっておかなければならないレベルがあって、それを守るだけでもそれなりに稼働かかるっていう意味でコストと強い関係がある。とすると、コストを守りつつ、要件を変更するには、やらなくていいことを増やすしかない。

山田

 そうだね。でもそれはなんでもそう。無駄なことはやらずに、やらなきゃいけないことに注力する。その辺の交通整理というか、うまく配分を支配するのが工程管理業者の役割かもしれないね。

葛西

 発注側はコストがあんまり見えてないから、いいものを期限までに作ってくれという。構築事業者は自分たちのコストが一番見えている。デリバリーを遅らせると確実にコストも増えるから、遅らせたくない。なので、なんとかスコープを調整させてくれという思いがあるはずなんですよ。これって立場によって相反するよねって思っていて、全部作らせたい発注側と、いやいや、そんな無理ですわっていう開発側の立場。その間に入って工程管理事業者は何ができるんでしょうねっていうのがやはり気になるところです。

山田

 開発側のプロジェクトマネージャの立場ですけど、これも計画段階で、工数増大の種を仕込んでいる可能性が結構あると思っていて、計画段階のスコープの定義とか、工数の見積もりとか、そういったところが結構重要だと思う。
 コストオーバーランになったプロジェクトの原因って、最初のスコープ定義が間違っていたり、あとはタスクごとの見積もりが過小だったり、そういったことが大きな原因になるケースが多い。
 なぜかというと、冒頭に言ったレスキュー案件は、コストオーバーランしていたわけ。最初に入ったときにいろいろ見ていくと、スコープの定義とお客様との合意がうまくいってなかったり、タスクの見積もりが過小だったりが大きかった。なので、計画段階でスコープ定義や見積もりを緻密にやれれば、ある程度は、工数増大を防ぐことはできるんじゃないかな。

葛西

 なるほど。開発側のプロジェクトマネージャとしてはそうですよね。PMOとして入る工程管理事業者が、お客様になのか、それとも開発側のプロジェクトマネージャに対してなのか、そのあたりを助言する必要がありますよね。

山田

 そうなんです。構築事業者が作ってくるプロジェクトの全体像に対して、PMOとして入る工程管理事業者もちゃんと納得感というか、きちっと理解しておく必要がある。
 そこから深く入っていれば、例えば計画段階で問題そのものは見つけられないかもしれないけど、問題がありがちな場所は指摘できて、「そこは大丈夫ですか」って確認ができる。大丈夫だって確認できればOKだし、何か見つかれば、事前に工数増大の原因を1つ潰せるわけだから。工程管理業者って、プロジェクト計画書を今まさに作っている段階からは、なんとなく入らないでしょ。

山下

 提出された計画とかはちゃんと見るようにしています。一番はスケジュール周りとかでタスク漏れとか、検討すべき要素が漏れていないかとかっていうのは最初結構見ますかね。

葛西

 それは重要ですね。



後編では、プロジェクトの成功・失敗とは? また、その時、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)としてすべきこと、また、お客様側に求められることについてご紹介します。