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自治体DXを推進するうえでの
「ベンダー選定」のポイントとは?

自治体×ベンダー×市民が協創している図

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自治体DXを推進するための課題には、自治体内・外のステークホルダーが一体となり対応していく必要があります。本記事では、自治体DXを推進するために、自治体外のステークホルダーである「ベンダー選定」を行う時のポイントや、自治体が取り組むべき課題について解説していきます。

自治体DX推進のカギを握る「ベンダー選定」

 政府は「行政サービスのデジタル化」「デジタル活用による業務効率化」など、自治体にDXの推進を求めています。しかし、自治体DXは全体として一定の進捗はあるものの、導入用途の偏りや住民の利便性向上の観点からみると、「デジタル技術の導入」が先行しうまく進んでいないのが現状です。主な要因として「デジタル化の目的意識が不十分」「デジタル人材や資金などのリソース不足」「地域住民の理解を得られていない」などが挙げられます。これらは、”自治体DX推進のボトルネック”となっており、昨今さまざまな対応策が考えられています。


自治体DX推進のボトルネックについては、以下の記事もぜひご一読ください。


デジタル田園都市国家構想を実現するには~ボトルネックと推進ポイント~
事例で見る“自治体DXを加速させる”デジタル人材登用・育成のポイント


 前述のボトルネックは自治体内部に目を向けたものです。しかし、多くのDXプロジェクトでは、自治体の外の事業者(=ベンダー)が関わってきます。本記事では、自治体DXを推進していくうえでのベンダー選定におけるポイントや課題について考えていきましょう。


 自治体の契約は、基本的に競争入札が原則となっています。そのため、明確な条件を定義しない場合、「価格が安い」だけのベンダーが選定される懸念があります。自治体は、プロジェクトがベンダーに求める要件や、ベンダーの自治体DXにおける具体的な実績などから入札参加者を絞り込むことが必要です。


 前述した“自治体DX推進のボトルネック”をふまえると、適切にベンダーを選ぶためには、自治体が初めに整理すべき課題があります。

「ベンダー選定」の課題は、まず事前準備にあり

 自治体DXに限らず、システム開発のプロジェクトでは「何を目的とするか」「誰が使うか」「どのような機能を持たせるか」など企画の根幹を整理したうえで、ベンダーの選定を行うケースが一般的です。そのため、自治体はプロジェクトの企画フェーズにおいて、以下の課題に取り組まなければなりません。企画を整理しないままでは、適切なベンダー選定をすることも難しいと考えられます。


・企画の根幹(目的、ターゲット、システムに求める機能など)の整理
・プロジェクト内容の地域ニーズ把握や地域住民の理解
・ITシステム開発の仕様書作成など行政分野と異なる業務


 また、企画の根幹の整理ができたとしても、入札要件を定義しなければ「ベンダーの選定」はできません。入札要件の定義には、あらかじめ整理したプロジェクトの目的をふまえ「誰が(ベンダーが(委託範囲内で))」「何を(どの手続を対象に)」「どのように(何の技術を使って)」などの項目で手段を具体化することが重要です。自治体は、業務として「調達仕様の作成」、「予算との調整」、「公募等の手続」を行います。

自治体が「ベンダー選定」で取り組むべき5つの課題

 自治体DXの根幹となる企画・要件が整理されたら、プロジェクトはシステム開発に向けたベンダー選定のフェーズに入ります。企画フェーズで整理した要件を用いながら、自治体が適切なベンダーを選定するために取り組むべき5つの課題について解説します。

① ベンダー選定基準の根拠を明確にする

 自治体は、自らがDXで実現したいことに対して、各ベンダーが保有・提供するさまざまな製品・技術から効果的なものを選定することが求められます。まず、具体的な自治体DXの目的や実現したい範囲など、明確な条件をベンダー各社に提示し、提案を依頼しましょう。目的等が明確になっていれば、実現に向けた手段として製品・技術の提案に繋がります。


 そのうえで、提案内容が有用なものであるか適切に判断するため、類似する目的を持つプロジェクトの事例や、製品・サービス、マーケットリサーチなどを事前に行っておく必要があります。その結果から、品質・価格・納期など提案書の内容に対する評価基準を整理しておくことで、適切な評価に繋げることが重要です。

② 提案内容と予算の調整をする

 自治体DX推進は、予算の範囲内で行わなければなりませんが、一定のコストを要します。そのため、ベンダー各社からの提案をそのまま採用するのではなく、プロジェクトの目的に照らし合わせ提案内容を取捨選択する必要があります。「DX化の範囲(スコープ)は適切か?」「オーバースペックではないか?」「無理な納期設定となっていないか?」などの優先順位を整理し、ベンダーと仕様を調整していく必要があります。

③ 性能・技術要件の評価基準を整理する

 ベンダーは、行政業務の専門家ではありません。ベンダーの提案が実際に役に立つのかどうか?を自治体が主導となり判断することが必要です。例えば「提案されたフローは、現状よりも職員の手間がかかるようなフローとなっていないか?」などの項目を確認することが求められます。もし、気づかずにプロジェクトを進めてしまった場合、大きな失敗につながってしまうかもしれません。ベンダーの提案内容について、企画フェーズで整理したプロジェクトに求める効果と照らし合わせ、デモ実演などを交えて分析することで、最終的な調達仕様書に反映するほか、技術要件を決定する際の判断基準を整理しておくことが肝です。

④ ベンダーロックイン回避の意識をもつ

 特殊な仕様、技術などを採用すると、製品や仕様が固定化してしまいます。これを、ベンダーロックインと呼びます。ベンダーロックインは「将来の新技術に対応できない」「汎用性が低いシステムが出来上がる」といったリスクを抱えており、回避することが望ましいといえます。ベンダーロックインを起こさないためには、他のプラットフォームとのデータ互換性を保持したり、クラウド上でプラットフォームを提供するサービス(AWSなど)を活用したりするなどの方法があります。自治体DXにおいては、汎用性を保てるよう標準化に配慮し、調達仕様の整理や提案審査を行っていくことを留意しておきましょう。

⑤ ベンダーとの適切なコミュニケーションを保つ

 ベンダー選定の終わりは、プロジェクトのマネジメントの始まりです。自治体は、システムの構築→導入→稼働まで、ベンダーと共にプロジェクト進行中の課題を管理し、解決していかなければなりません。そのためには、ベンダーからプロジェクト進行中の課題が速やかに共有され、共に解決できるような良好なコミュニケーションを保つことが重要です。

民間事業者の力を借りつつ、自治体の内部人材を育てていくことが大事

 現在、国が求める推進状況に比べ、国内の自治体DXは停滞していると考えられます。システム構築に限らず、企画フェーズの課題整理などにおいても、ノウハウやリソースの不足等がある場合に民間事業者を活用することは自治体DXの後押しに繋がるのではないでしょうか。
 それと同時に、自治体の内部でベンダー選定やシステム調達に知見のある人材を育てることが重要です。各プロジェクトをOJTの場として、民間事業者からスキルトランスファーを受けることも有効でしょう。自治体DX推進の主役は、あくまで自治体です。ベンダー選定やシステム調達・利活用において当事者意識を持つことが重要と考えます。