
ドローンを取り巻く国内制度の動向
ドローン(Drone)と呼ばれる無人航空機は、日本の航空法の定義では「航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの」と定められています。
そのドローンについて、管理のための制度と利活用促進のための制度の双方が、現在、急速に整備されています。
まず、管理の面では、2015年に起きた首相官邸への無人機落下事件を契機に、2015年中無人航空機の定義および無人航空機の飛行ルールを定めた改正航空法が施行されました。その後、2022年6月20日以降、屋外を飛行させる100g以上の無人航空機について、登録が義務付けられることになりました。
また、2022年12月5日から、国土交通大臣が機体の安全性を確保するための基準に適合することを認める認証制度(機体認証制度)、国土交通大臣が無人航空機を飛行させる者に対して無人航空機を飛行させるのに必要な技能を有すると認める証明制度(技能証明)が制度化されました。
これらは、飛行の安全を制度面から確保するために必要な制度であり、この後に説明する利活用の促進のため法制度の整備と強く関係しています。
利活用の促進の面では、同じく2022年12月5日より、第三者の上空を飛行しない場合、飛行条件や適切な技能証明、認証された機体等の条件に当てはまる場合は、飛行毎の許可・承認が不要となりました。さらに、第三者の上空を飛行する自動操縦による飛行(レベル4飛行と呼ばれる)についても、より高度な技能証明と認証を受けた機体による飛行であれば、飛行の許可・承認により運航が可能となりました。(図1)
これに加えて現在、一定の運行管理体制が確立している事業者に対しては、同じ条件の飛行であれば第三者上空を飛行する場合にも飛行毎でなく、一定の期間にわたって申請を有効とするような包括申請を許可する制度変更が検討されています。
このように、ドローンを幅広く事業や公共サービスに活かす、ドローンの社会実装のための準備は着々と進みつつあります。

ドローン社会実装に向けた国内の取り組み事例
経済産業省のデジタルライフライン全国総合整備計画によると、ドローンが飛ぶための空の道路(航路)の整備が「アーリーハーベストプロジェクト(早期に取り組むべき領域)」のひとつに挙げられており、ドローンの社会実装に向けた整備が具体的に促進されていることが分かります。(図2)
デジタルライフライン全国整備計画は、社会課題解決や産業発展のデジタルによる恩恵を全国津々浦々に行き渡らせるため、官民で集中的に大規模な投資を行い、自動運転やAIによるイノベーションを線・面で社会実装することで働き手の賃金の向上を実現すると共に、人手不足や災害激甚化といった社会課題の解決を図ることを目的とした約10カ年にわたる計画です。

ここでは、アーリーハーベストプロジェクトとして取り上げられているドローン航路の整備について、埼玉県秩父エリアの事例をご紹介します。
ドローン航路:埼玉県秩父エリアの事例
デジタルライフライン総合計画書には、送配電網等の既存インフラを活用して将来的に地球1周分(約4万km)を超えるドローン航路の整備を目指すとあります。アーリーハーベストプロジェクトにおける埼玉県秩父エリアの事例では、2024年度頃までに、埼玉県秩父エリアの送電網等の上空を全長150km以上のドローン航路とし(図3)、その後、点検業務の効率化や、物資配送等へドローンが利活用される予定です。今後、ドローン航路の整備のために、緊急着陸ポイントや第三者が立ち入る兆候を確認できるカメラ、気象プローブ機器等の設備の設置が進められていきます。
また、本施策の実現に向け規制の緩和も並行して検討されています。具体的には、デジタル技術(機上カメラの活用)、操縦ライセンスの保有、保険への加入を条件として、補助者・看板の配置や一時停止等の立入管理措置が不要となると共に、道路や鉄道等の横断が容易となるような制度が新設され、今後、このドローン航路の利用者が行う飛行の手続きが容易になる見込みです。

ドローン社会実装に向けた今後の課題
上述したとおり、技術面や制度面では、ドローンの社会実装に向けた取り組みは進みつつあります。社会課題の解決を目指し、安全面が確保されることを条件に、柔軟に法規制の緩和に取り組む姿勢は高く評価されるべきです。
一方で、デジタルライフライン全国総合整備実現会議におけるドローン航路の整備に関するワーキンググループの中では、「実証で終わらせないためにもマネタイズが重要」、「平時・災害時どちらでもビジネスモデルとして成立させる必要がある」といった現時点での採算面での意見や、「住民・自治体との合意形成が重要。社会受容には、事業者認定に関するエビデンスが必要」といったドローンが私たちの上空を飛び交う将来に対する不安を述べる意見も挙がっている、との報告があります。
しかし、短期的なマネタイズや現状での不安を基に、イノベーションを止めることはあってはいけません。
ドローンをはじめとした無人自動運行を行う仕組みは、将来的に人手不足により生活必需サービスの継続的な提供が徐々に困難になる時代に突入することを必至である以上、必要不可欠な投資であるはずです。もちろん、根拠のない過度な投資や、安全性を無視した制度立案はあってはならないことですが、適切な評価に基づく継続的な技術への投資と、正しい情報のフィードバックにより新しい技術や制度への社会受容を啓蒙することで、ドローン航路のようなドローンを利活用できる仕組みを将来の社会インフラへと育てていくことが重要であると考えます。