インフォグラフィックでわかる
日本の社会問題
行政サービス・電子申請利用の壁
「デジタルディバイド」を解消するには?

整備は進むも「利用されない」電子申請・Web上の行政サービス
Web上の行政サービスは、スムーズな手続きを可能にするシステムとして注目されています。しかし、高齢者を筆頭に、対面での手続きを求める声も多く、大多数の申請がオンラインで行われるようになるまでにはまだ時間がかかりそうです。

総務省の調査によると、電子申請システムの整備状況は地方自治体でも8割を超えているようです(図1)。しかし、一方で利用率はコロナ禍の2022年8月時点でも40.8%と低く、整備は進んでいるもののなかなか浸透していない状況がうかがえます(図2)。

利用率低迷の背景にある
「デジタルディバイド」問題
要因の一つとして考えられているのが、「デジタルディバイド」です。インターネットやパソコン等の情報通信技術を利用できる者と利用できない者との間に生じる格差のことで、特に端末普及率が相対的に低い高齢者において問題視されています。
デジタルディバイドの分類としては、①個人間・集団間、②地域間(国内)、③国際間の3種類があります。先の、電子申請等が利用されていない問題について、日本の自治体においては、①個人間・集団間にフォーカスした施策検討が必要であると考えられます。
デジタルディバイドが起こる
3つの主要因
個人間・集団間のデジタルディバイドは、大人に限れば、高齢者が「利用できない者」として想起されがちですが、原因は様々です。自治体における施策立案の一助とするため、それぞれの原因を分析していきましょう。
【原因1】
高齢者が、端末を持っていない・端末をうまく利用できない
高齢者へのスマホの普及率は上昇している一方で、世代間の差を見ると相対的にはまだ低いようです(図3)。端末を持っていても使いこなせない方も多く、対面での手続きの方がよいと感じる方も少なくないでしょう。

【原因2】
オンライン行政サービスが認知されていない
トラストバンクが行った「行政手続きのデジタル化に関するアンケート」によると、電子申請をしない理由の1位は「オンライン申請でできること自体を知らなかったから」(図4)とあります。オンライン上でできる行政手続きが限られていることもあり、求める行政サービスがオンラインで利用できると認識できていないケースが多いようです。

【原因3】
電子申請が使いづらい、安心できないと思われている
また、同調査によると、電子申請をしない理由として「職員と対面で申請や手続きをしたほうが安心だから」「オンライン申請の方法やサイトの使い方が複雑で使いづらいと思ったから」を選んだ人がそれぞれ約2割います。電子申請画面の使い勝手が悪い、もしくは、コールセンターに問い合わせをするが、つながらない、要領を得ないといった理由から「対面の方がいい」となっているようです。「使いにくいと感じる体験」は、電子申請に再チャレンジする意思を持ちにくくしてしまうので注意が必要です。
電子申請の利用率向上を目指す
取り組み3選
電子申請の障害となっているものが、「端末の不所持・利用困難」、「電子申請の認知度」、「対面志向・UX設計不足」に分類されることが分かりました。ここからは、それぞれの原因についての打ち手を、事例を参照しながら検討していきます。
【対策1】
端末購入の促進と利用支援を行う
考えられる対策の一つとして、端末の普及率が低い層(高齢者など)への購入助成や利用時の困りごとをサポートする取り組みが挙げられます。実際に、加賀市(石川県)では、購入助成に加え、使い方教室、よろず相談所といった取り組みが行われています。また、渋谷区(東京都)では端末貸与やなんでもスマホ相談を開催するなど、デジタル端末の利用支援を活性化させています。
【対策2】
普及率の高いスマホアプリを活用する
西尾市(愛知県)のように、LINEなどをすでに市民が利用しているSNSアプリを利用する手もあります。使い慣れたSNSでの電子申請は、住民からの認知度向上や、UX/UIの不満の低減することを期待できます。また既存のツールを利用することによる、早期のオンライン化実現をも期待できます。
【対策3】
誰もが利用しやすいUIとサポート体制を目指す
UIデザインの視点では、「最もサービス利用に苦労される方」を想定してサービスを設計することが大切です。例えば、視覚障がい者を想定して音声案内を導入することで、老眼で文字が読み取りにくい方も利用しやすくなったり、片手だけで操作できるサイト設計を行い、若い親が子どもを抱っこしながら情報検索しやすくするなど、副次的な効果も期待できます。UIデザインの参考として、例えば、デジタル庁では専門人材によるデザイン・ウェブアクセシビリティ支援やデザインデータの公開が行われています。
また、「使いにくいと感じる体験」を避けるため、オンライン相談窓口などサポート体制を作るケースも参考になります。電子申請が促進されれば、利用者の利便性向上のみならず、自治体職員の生産性向上も期待できます。今後、より行政サービス向上のための取り組みは必要になるでしょう。