事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ
社会インフラマネジメントの「次のステージ」へ ―― 米国・カナダの政策動向が日本に問いかけること
現在、複数自治体・複数分野のインフラを「群」としてまとめてとらえ「自治体」「事業者」「技術者」などを束ねて管理する「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」による、社会インフラ・公共建築物の長寿命化に向けた取組が進められています。
本稿では、日本における国レベルでの社会インフラ整備・維持管理・修繕政策を紹介するとともに、海外先進事例として米国・カナダにおけるインフラマネジメントの取組を紹介します。
2025年八潮市の道路陥没事故が問いかけること
2025年1月28日、埼玉県八潮市の県道交差点で地面が崩落し、通過中のトラックが転落、陥没は最終的に幅(直径)最大約40メートル、深さ最大約15メートルへ拡大した。原因は、1983年に敷設された下水道管が硫化水素で腐食・破損し、年月をかけて地中に空洞が形成されたことにある。埼玉県東部12市町の下水が集まる流域下水道の幹線が損傷したため、その影響は約120万人の生活に及んだ。
この事故は、唐突に起きたわけではなく、日本の社会インフラ老朽化対策には、前史がある。
2003年4月、国土交通省の検討委員会は「道路構造物の今後の管理・更新等のあり方」と題する提言をまとめた。道路構造物の点検による健全度評価、劣化予測、ライフサイクルコストの最小化を組み合わせたアセットマネジメントの考え方を、道路管理に導入することを求めた。2012年12月、中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し9人が亡くなった事故が、今につながる政策を加速化した。国土交通省は翌2013年を「社会資本メンテナンス元年」と位置づけ、同年11月には政府全体の方針として「インフラ長寿命化基本計画」が策定された。2013年の道路法改正では橋梁・トンネル等に対して「5年に1回」の頻度で「近接目視」による定期点検が義務付けられ、事後的な「修繕」から事前の「予防保全」への転換が制度的に明確化された。
その後も我が国の政策的な取組は続き、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の第1期(2014〜2018年度)では「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」が重要課題として設定され、点検・診断への新技術導入に向けた研究開発が本格化し、SIPの第3期(2023~2027年度)にも引き継がれている。また、2022年12月には「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」の提言がとりまとめられ、複数の自治体・分野にまたがるインフラをひとつの「群」として総合的に管理するという政策が登場した。
八潮市の事故に対して、「点検が足りなかったのか」「下水道管の耐久性に問題があったのか」という個別の論点に限定することは適切ではない。国土交通省が設置した「下水道等に起因する大規模な道路陥没事故を踏まえた対策検討委員会」が2025年5月に示した第2次提言、さらに同年12月の第3次提言が指摘するのは、より根深い構造的な問題である。当時の整備条件や構造特性から管内への入坑や点検が困難な構造となっている場合があること、多くの自治体で技術職員の配置と人材養成が厳しい状況にあること、財源確保が困難な状況が続いていること、道路管理者と占用者の間でメンテナンス情報を統合的にデジタル管理する体制の構築が遅れていること——これらは、点検の強化だけでは解決できない問題である。
社会インフラの老朽化対策は、日本だけが直面しているものではなく、海外先進国もまた、同様の課題を抱えている。本稿では、米国・カナダの政策動向が日本に問いかけることをみていきたい。
日本の政策対応の現在地——制度化から実行へ
次節で米国・カナダの政策動向をみる前に、前節で触れた日本の社会インフラ老朽化対策のうち、直近の動向をみておきたい。すなわち、多様かつ多数の社会インフラを所管する国土交通省、地方自治体の公共施設マネジメント政策の総務省、科学技術政策の内閣府を中心に、その取組を概観する。
制度化——第2次インフラ長寿命化行動計画に見られる実行への課題
2013年11月に政府全体の取組として策定された「インフラ長寿命化基本計画」は、2030年頃を最終的なマイルストーンと設定し、「老朽化に起因する重要インフラの重大事故ゼロ」が掲げられている。本基本計画に基づき、2014年5月、国土交通省が管理・所管するインフラの維持管理・更新等を推進するための取組を示したものが「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」(計画期間:2014~2020年度)である。さらに、本行動計画で実施してきたメンテナンスサイクルの構築などの取組を土台とし、「予防保全」への本格転換、新技術等の更なる普及、インフラストック適正化の推進などの取組を掲げ、「持続可能なインフラメンテナンス」の実現を目指すものとして、2021年6月に策定されたものが、第2次の「国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)」(計画期間:2021〜2025年度)である。
直近(2026年2月)に示された第2次行動計画のフォローアップでは、下記が示されており、計画から実行へと移行させるため、小規模な市町村も含めて、「賢い」対策の実行が待たれている。
① 道路橋やトンネルなど多くの主要インフラで「個別施設計画」の策定がほぼ100%近くまで完了し、実際の修繕着手や新技術(センサー、ロボット等)の導入といったメンテナンスサイクルが着実に機能し始めている。
② 一方で、予算や人員が不足している地方自治体(特に小規模な市町村等)では計画策定や対策が遅れがちである。この状況を乗り越えるため、国は自治体に対して技術的支援・指導を強化する。
③ 単に直すだけでなく、新技術の活用、施設の集約・撤去、広域連携(地域インフラ群再生戦略マネジメント)に取り組む事業に対し優先的な財政支援を行う。
制度化——地方公共団体が策定する「公共施設等総合管理計画」
国土交通省が所管する「社会インフラ」のほか、自治体が管理する公共建築物(庁舎、学校、公民館、病院、公営住宅など)にも老朽化の波は押し寄せている。この問題に対応するため総務省は、2014年4月に全国の地方公共団体に対して「公共施設等総合管理計画」の策定を要請し、2016年度までの策定完了を想定して、全国の自治体に策定を促した。この計画では、建築物や社会インフラ施設を含む自治体が保有する全ての公共施設等を対象に、10年以上の計画期間で管理方針を定めるものである。また、現状把握や更新費用の推計については、30年程度以上の長期的視点で行うことが推奨されている。
2025年3月時点では、全ての団体で、公共施設等総合管理計画が策定済みとなっている。策定された計画に基づき、老朽化対策や施設の集約化・複合化などの適正管理を各団体が推進できるよう、国の財政支援である「公共施設等適正管理推進事業債」の事業期間が2026年度末まで延長されている。
技術開発——社会インフラマネジメントへの新技術導入の加速
2014年度に創設された「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」は、5年間を1つの期として継続的に実施され、現在は第3期(2023~2027年度)である。SIPは、内閣府が司令塔となり、省庁や旧来の分野の枠を超えたマネジメントを行うことで、基礎研究から社会実装までを見据えて、研究開発を推進する国家プロジェクトである。
社会インフラに関しては、第1期(2014〜2018年度)に「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」として設定され、橋梁等の近接目視や打音検査を代替するドローン、走行車両を利用した路面状況の把握、取得データからインフラの健全度や余寿命を予測する診断技術、インフラ長寿命化に資する新材料や補修・補強技術など、現場での実用化を見据えた研究開発が本格化した。
第3期(2023〜2027年度)には「スマートインフラマネジメントシステムの構築」として設定され、第1期で開発された技術を基盤としつつ、設計から維持管理までを一体的に管理するデジタルツインの構築、データ活用による予防保全型維持管理サイクルの実現、EBPMやグリーンインフラを活用した地域インフラ群のマネジメントなど、インフラシステム全体のスマート化と持続可能で魅力的な国土・都市・地域づくりを見据えた社会実装が目指されている。
広域連携の推進——「群マネ」という発想
2022年12月、国土交通省が新しい概念の政策として提唱したのが「地域インフラ群再生戦略マネジメント(群マネ)」である。従来のインフラ管理は、一つの自治体が、一つの種別(道路、下水道、公園など)ごとに管理計画を立てるという「単独・縦割り」の発想である。これに対して群マネは、複数自治体・複数分野のインフラを「群」としてまとめてとらえ、「自治体」「事業者」「技術者」の3つを束ねて管理する仕組みである。
具体的には、垂直連携(都道府県が関与した広域連携)と水平連携(市町村同士の広域連携)による「自治体の束」、民間事業者と長期・包括的な契約を結び維持管理プロセスを統合する「事業者の束」、市町村の枠を超えて技術系職員がノウハウを共有し合う「技術者の束(人の群マネ)」を実現し、システムやデータも共通化しながら効率的に管理することを目指している。
2026年3月開催の「第10回 群マネ計画検討会・実施検討会」では、今後の検討課題に関する議論がなされている(表1)。
現在は、国や地方自治体が、社会インフラや公共建築物の長寿命化に向けた行動計画を策定し、計画に沿った維持管理や修繕が本格化しはじめた時期である。また、社会インフラの点検、健全度や余寿命を予測する診断技術などの新技術の活用も効果を確認しながら現場への社会実装が始まりつつある。このようなときに対応が遅れがちな小規模な市町村を「群マネ」という手法でカバーする考え方も普及していく段階である。
次節では、米国・カナダにおいて「群マネ」と同等の政策がどのような工夫をしながら進められているのか、ヒントを得たい。
海外先進国の取組に見られる示唆
1. カナダ「Municipal Asset Management Program(MAMP): 地方自治体アセットマネジメントプログラム」
本稿で調査対象とした海外先進国(米国、カナダ)(注1) による社会インフラマネジメントの施策・事業の中に、日本の「群マネ」と完全に同一の体系を持つ国・自治体は確認されなかったが、「複数自治体・複数分野のインフラを束ねて広域・一体的に維持管理する」という考え方は、各国でそれぞれ異なる内容・段階で実践・議論されている。
(注1)グラビス・アーキテクツでは、国内及び海外の社会インフラマネジメントに関する政策や具体事例についてスタディを継続しており、今後機会があれば、これらの情報もお伝えする予定である。
1.1 概要
本プログラムは、2017年から2024年にかけて、カナダ連邦政府(インフラ・カナダ省、現在の住宅・インフラ・コミュニティ省)が総額1億1,000万カナダドルを拠出し、カナダ自治体連合(Federation of Canadian Municipalities)によって運営された。
本プログラムの背景には、社会インフラ老朽化の深刻な現状、メンテナンス予算の不足、中長期的計画を立てる専門職員の不足、気候変動による物理的脅威があった。また、その最大の目的は、「信頼性の高いデータを利用して、インフラ投資や維持管理に関して戦略的かつデータ駆動型の意思決定を行えるよう自治体を支援すること」にあり、言い換えるならば、
① 自治体職員のアセットマネジメントに関するスキル・知識の底上げ
② 信頼性の高いアセットの健全度データを収集し、将来の劣化リスクを予測できる状態にすること
③ 自治体間の協働により良い成果を実現する方法を見出すこと
にあった。
1.2 具体的な取組
MAMPは、全国2,773の自治体を支援し、支援を受けた州や市により様々な取組がなされている。共通するものとしては、「アセスメント計画の策定、ソフトウェア導入などに対する補助金の交付」「集団学習・実践的研修・オンライン研修の提供」「ガイド・ツールキット等の提供」がある。
本プログラムの採択を受けた一つに、ノースウェスト準州内の33自治体による北部コミュニティの運営がある。広大な面積や厳しい気候、専門知識の不足といった北部特有の課題に対処するため、北部の実情に合わせたトレーニング、ライフサイクル計画のワークブック、予防保全のチェックリストなどの資料を共同で開発・配布したほか、複数の自治体職員などが一堂に会するアセットマネジメント会議を開催し、地域全体での計画能力の向上を図った。また、本プログラムの採択を受けたマニトバ州の4自治体では、アセットマネジメント能力向上のため、地域で共有する専門人材を確保した。さらに、各自治体は個別に、トレーニング、資産データの整備、GIS・ソフトウェアの導入・改善、リスク分析等を通じて、内部のアセットマネジメント能力の強化を進めた。
MAMPは、カナダ全国を対象に8年間実施されたプログラムで、採択を受けた州・準州や傘下の群・市町村による多様な取組がなされてきた。
本プログラムは2024年に終了したが、そこで培われた取組は、新たなプログラムへの継承や、既存のインフラ投資基金との連携という形で現在も活かされている。
具体的には、本プログラムの支援によって自治体が策定・改善した「アセットマネジメント計画」が土台となり、その計画で優先順位付けされた社会インフラプロジェクト(道路や上下水道の修繕・更新など)に対して、並行して運用されているBCSF(Build Communities Strong Fund:コミュニティ強化基金)の資金が投入されるという連携関係が機能している。
また、本プログラムでは自治体によるインフラのアセットマネジメント能力の向上が図られたが、インフラを気候変動リスクへの適応やレジリエンス強化の観点からも計画的に管理する必要があるとの認識から、その教訓や機能は、新たに立ち上げられたLLCA(Local Leadership for Climate Adaptation:地域気候適応リーダーシップ)というプログラムへと継承されている。
1.3 日本への示唆
日本の群マネ政策のこれまでの注力先は、発注主体である自治体を束ねること、受注主体である事業者を束ねること、さらに「発注主体の束ね方」「委託業務の束ね方」「契約期間の束ね方」「事業者側の束ね方」などの契約スキームを整理することによって、限られた人員や予算の中でも社会インフラを維持管理・修繕しやすい体制を構築しようとしてきたことにあると筆者は理解している。また、モデル地域の取組を通じて明らかになりつつあるのは、真の課題は自治体間や、自治体・事業者間の契約方式だけではなく、それらを企画し運営する自治体側のマネジメント能力にあるということである。
MAMPは、この課題に対して、自治体職員の能力向上(capacity building)、標準化された実務ツールの整備、アセットマネジメント計画の策定支援に注力したと言える。そして、その成果として策定された社会インフラに関する計画が、後続のインフラ投資プログラムへとつながっている。
この視点から見ると、日本の群マネ政策の次の段階では、「技術者を束ねる」や「データを束ねる」だけでなく、「自治体のアセットマネジメント能力を高めること」を政策目的として注力することが必要なのではないかと思われる。例えば、国や都道府県が中心となり、標準的な研修プログラム、実務ガイド、チェックリスト、テンプレート、データ管理ルール等を整備するとともに、モデル地域や自治体間で継続的に学び合う仕組みを構築することが考えられる。また、社会インフラに関する情報をデジタルデータとして蓄積・共有し、AI等も活用しながら、自治体職員が単純な情報処理業務ではなく、本来担うべき意思決定や合意形成業務に集中できる環境を整備することも重要と考えられる。
2. 米国「社会インフラマネジメントに関するプロジェクト・バンドリング」
2.1 概要
米国において、社会インフラに関する複数のプロジェクトを束ねて一括発注する「プロジェクト・バンドリング(Project Bundling)」の手法が広く普及し始めたのは、2010年代半ばである。それまでに幾つかの州での先行的な取組において「スケールメリット(規模の経済)」や効率性が認知されはじめ、2010年代半ばに連邦政府の支援と法整備を得て全米で一般化した。その端的なものは、2015年に制定された連邦法「FAST Act(陸上交通固定法)」である。同法には橋梁プロジェクトのバンドリング(複数案件の一括契約)に関する規定(Sec.1111)が設けられ、連邦法上その活用が明確に位置付けられた。さらに、2019年、連邦道路庁(FHWA)は、プロジェクトの迅速化やコスト削減を目的として、実証済みの革新的手法の普及を図る「Every Day Counts(EDC)」プログラムの第5期(EDC-5)において、「プロジェクト・バンドリング」を主要イノベーションの一つとして位置付け、州および地方機関に対し、ガイドブック、ウェビナー、ワークショップなどを通じて導入支援が行われた。
このような連邦政府の推進を背景に、各州では、市町村や郡がバンドリングを行いやすくなるような独自の州法の制定や補助金プログラムを用意した。このように連邦と州の取組が相互に補完的に進展した結果、米国各地において多くのプロジェクト・バンドリングの事例が産み出されている。
2.2 具体的な取組
米国のプロジェクト・バンドリングは、単なる共同発注やコスト削減手法ではなく、道路や橋梁等の社会インフラに対するアセットマネジメント手法として発展してきた。社会インフラの劣化状況や優先順位に基づき複数プロジェクトを戦略的に束ね、効率的かつ効果的に事業を実施することが重視されている。
その実施形態は多様であるが、代表的なものとして、
①同種インフラを対象としたプロジェクトの一括発注
②複数の管理主体が連携して実施する共同発注
③複数分野の社会インフラを統合して行う包括的発注
などがある。
①同種インフラを対象としたプロジェクトの一括発注
橋梁、舗装、道路附属物など、同種の社会インフラに関する複数のプロジェクトを一つの契約としてまとめて発注するモデルであり、米国では連邦道路局(FHWA)が主導し最も多くの事例が産み出されている。2021年にFHWAが発行した「Advanced Project Bundling -A Reference for Getting Started-」では、バンドリングの対象として「橋梁」、「道路」、「信号や標識、照明等の交通施設」「小規模な地下排水管やカルバート」「道路や橋などの整備に伴って発生する水道・ガス・電気・通信ケーブルの移設や鉄道関連の工事」とされている。
単なる発注事務の効率化だけでなく、劣化状況や更新優先度が類似する施設群を計画的に束ねて実施することにより、社会インフラをプログラム単位(プログラム:複数のプロジェクトやプロジェクト・バンドリングを、一定期間・一定予算・一定目標の下で管理する上位の政策)で管理するアセットマネジメント手法として活用されている。類似案件を集約することで、設計の標準化や施工の効率化、コスト縮減を図るとともに、限られた予算や人員の中で、より多くの社会インフラの維持管理、修繕及び更新を効率的に進めることが期待されている。
②複数の管理主体が連携して実施する共同発注
行政区域の垣根を越え、複数の郡や市町村が「自治体間協定」などを締結し、社会インフラの維持管理や修繕業務を共同で発注するモデルであり、多くの事例が生まれている。隣接する自治体が案件をまとめ、代表となる機関が一括して入札・契約管理を行うことで、スケールメリット(規模の経済)が働くことが期待できる。
③複数分野の社会インフラを統合して行う包括的発注
道路、橋梁、上下水道など異なる分野の社会インフラ事業を、地域や回廊(コリドー)単位で一体的に実施するモデルである。地下インフラの更新と地上の道路工事のタイミングを合わせることにより、工事の重複や掘り返しを抑制し、交通や住民生活への影響を最小化するとともに、事業費の縮減や工期短縮が期待されている。
本モデルに関する事例は、存在はするが、まだ発展途上の先進的な試みという位置づけとなる。その理由は、「社会インフラ毎に財源が異なること」、「管理部局が異なること」、「社会インフラ毎に技術的アプローチが異なること」にあるとされている。
2.3 日本への示唆
米国のプロジェクト・バンドリングは、複数の業務や自治体を束ねるだけではなく、個別の社会インフラの維持管理、更新・修繕プロジェクトを、アセットマネジメント上の目標や優先順位に基づいて戦略的に束ねることの重要性を示している。すなわち、バンドリングの直接の対象は個別プロジェクトであるが、その束ね方は、老朽化対策、事業期間の短縮、コスト縮減、維持管理水準の確保といったプログラム目標(プログラム:複数のプロジェクトやプロジェクト・バンドリングを、一定期間・一定予算・一定目標の下で管理する上位の政策)に従って設計されている。また、プロジェクト・バンドリングの手法には、①同種インフラの一括発注や、②複数の自治体による共同発注、③複数分野の社会インフラを統合して行う包括的発注など、多様な実施形態が見られた。
「①同種インフラの一括発注」では、単に発注件数をまとめるのではなく、劣化状況や更新優先度が類似する施設を束ね、設計・施工の標準化、施工時期の平準化、コスト縮減を図っている。日本においても、自治体が保有する施設データ、点検結果、健全度、利用状況、将来更新費、地域の将来像を踏まえ、どの施設を維持し、どの施設を集約・撤去し、どの施設群を一括して更新・修繕するかを判断する、アセットマネジメント政策として位置付けることが重要だと思われる。
「②米国の複数の自治体による共同発注」では、州、郡、市町村が協定やパートナーシップを通じて役割を整理し、代表機関が入札・契約管理を担うなど、連携を実務に落とし込む仕組みが用意されている。日本においても、代表自治体への負担集中や責任分担の不明確さを避けるため、広域連携の群マネの類型に応じて、どの主体が発注し、どの主体が管理判断を行い、最終的な管理責任を誰が負うのかを、標準的な雛形やガイドラインとして示すことが重要と思われる。
「③米国の複数分野の社会インフラを統合して行う包括的発注」は、米国においても「発展途上」の段階ではあるが、米国のシラキュース市やピッツバーグ市の事例は示唆に富むものである。日本のモデル地域においても、多分野連携として道路、河川、公園、下水道等を包括化する取組は進められているが、維持管理業務や窓口業務、点検・修繕設計等の効率化に重点がおかれているように思われる。これらの効果も大切にしながら、同時に、地下インフラと地上インフラの修繕や更新を一体的に束ねることによる、道路資産の耐用年数の延長、掘り返し工事の重複から来る交通規制や住民生活の負担の緩和、間接費用の抑制などの効果もより意識することが重要になると考えられる。
また、上記と異なる観点として、事業者との長期契約やPPPの活用がある。米国のDBFM型PPPのように、事業者が設計・施工・維持管理・資金調達まで長期に責任を負い、ライフサイクルコストを下げるほど事業者にメリットが生じるような明確なインセンティブ設計が重要であることも米国事例からの示唆と考えられる。
地方自治体の現場へ——次稿への橋渡し
本稿では、まず、日本における国レベルの政策の現在地を確認した。その上で、日本と同様に、限られた財源と人材という制約の下で、老朽化した社会インフラの維持管理、修繕・更新に取り組む米国及びカナダの事例を取り上げ、日本の群マネ政策への示唆を得ようとした。
これらの比較から明らかになったのは、米国及びカナダにおいても、社会インフラに関して、一つの自治体が一つの業務を個別に発注し、個別に管理する従来型の方式だけでは限界があるということである。カナダのMAMPからは、自治体が信頼性の高いデータに基づき、アセットマネジメント計画を策定し、投資判断や維持管理を行うためには、自治体職員の能力形成、実務ツールの整備、自治体間の学習機会の確保が不可欠であることが示された。また、米国のプロジェクト・バンドリングからは、個別の維持管理・修繕・更新プロジェクトを、単に発注事務の効率化のために束ねるのではなく、インフラの劣化状況、更新優先度、工事時期、維持管理責任、ライフサイクルコストを踏まえて、戦略的に束ねることの重要性が示された。
本稿は、国レベルの政策と海外事例の比較を中心に論じたものであり、社会インフラの圧倒的な量を保有・管理し、日々の維持管理、修繕・更新を実務として担う地方自治体の現場には、なお十分に踏み込めていない。群マネは、国が構想する政策であると同時に、自治体職員、事業者、学識者、住民が、それぞれの制約と利害の中で具体化していく実践でもある。
次稿では、群マネモデル地域の取組状況を手がかりに、群マネが自治体現場で何を解決し、何をなお課題として残しているのかを見ていきたい。あわせて、群マネを単に自治体間や、自治体・事業者間の契約方式の進化形態としてではなく、自治体が他自治体や事業者、住民等と連携しながら、社会インフラをアセットとして捉え管理していく能力を再構築する観点から捉え直すことができるかも考察することとしたい。






