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社会問題の解決アプローチ
官公庁における基盤システムに求められるもの
この基盤システムの役割や課題、そして今後、基盤システムにどのようなことが求められるかについて、ガバメントソリューションサービス(GSS)、AIの利活用を含めて解説します。
1. 官公庁における基盤システム
基盤システムの構成要素とその役割
官公庁における基盤システムは、官公庁職員が行政業務を行う業務システムをセキュアかつ安定した環境で利用できるよう支えるために整備される通信・情報共有基盤です。各官公庁により整備範囲が異なる点もありますが、主に以下の技術要素で構成されます。
①業務支援機能
- ファイル共有、メール、掲示板、スケジュール管理などのグループウェア
- 行政文書や業務データの保存・共有するファイルサーバ
②ネットワーク
- 庁内(外部拠点含む)のネットワーク環境
- 官公庁間の通信を担う政府共通ネットワーク(G-Net)
③インフラストラクチャー
- 業務支援機能を支えるサーバ等の機器類
- 職員が利用するPCやタブレット、複合機等の機器類
④ウイルス対策
- ファイアウォール、フィルタリング、ログ取得などによる情報保護
➄共通基盤
- 官公庁における独自システム等を整備するための共通的に利用する基盤
⑥運用管理要素
- 上記に係る運用及び保守
- 職員業務支援パッチ管理ソフトウェア:端末のセキュリティ更新を自動化
このように、基盤システムは多岐に渡る技術領域によって構成されています。特定の個別業務に関する業務システムとは異なり、PCやファイルサーバ、メール等といった要素も含まれ、原則、官公庁に属するすべての職員が業務に利用するため、行政業務の効率化とセキュリティ確保を支える非常に重要な役割を担っています。
基盤システムが抱える主な課題
官公庁における基盤システムは、おおよそ4年から5年のサイクルで更新が行われます。その都度現行システムに関する調査分析を経てシステムが更改されますが、総じて下記①~⑥に示すような課題を抱えているケースが多く見受けられます。特にシステムの利用者には①が直結する課題となりますが、工期や予算等の兼ね合いもあることから、すべての利用者における要望を実現することは非常に困難となります。
①ユーザー利便性の不足
- 利用者の要望を踏まえた新規サービスへの検討
- 省庁ごとに提供する機能が異なるため、ユーザー利便性には差が発生
②複数LANの混在による非効率性
- 省庁ごとに独自のLANが存在し、統一性がない
- ネットワーク構成が複雑で、管理・運用コストが高い
③セキュリティリスクの増加
- 最新のセキュリティ技術への対応
- クラウドの利活用に伴い新たなセキュリティ対応への対応
- 外部接続口が複数存在し、ウイルス感染や情報漏洩のリスクが高まる
- フィルタリング基準が画一的で柔軟性に欠ける
④老朽化したインフラと技術的制約
- 回線速度や帯域幅が不足し、業務効率に影響
⑤災害時の可用性・信頼性の不足
- バックアップ回線や冗長構成が不十分
- 拠点間接続の障害時に業務継続が困難
⑥技術者の単価増、機器類の費用増
- 昨今の物価上昇等が起因し、技術者及び機器類の費用が増加
2. ガバメントソリューションサービス(GSS)
デジタル庁は、前述した基盤システムが抱えるさまざまな課題の解決を目指し、官公庁職員のための政府共通の標準的な業務実施環境(業務用PCやネットワーク環境)「ガバメントソリューションサービス(GSS)」を提供し、GSSへの移行を進めています。このGSSは、行政機関における生産性やセキュリティの向上を図りつつ、テレワーク等柔軟な働き方を促進できるようゼロトラストアーキテクチャを採用したネットワークです(注1)。
(注1)「国・地方ネットワークの将来像及び実現シナリオに関する検討会 報告書」令和6年5月、https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/9c407fc9-90b0-49b9-bb51-c0d2662fa509/4924f4be/20240531_councils_local-goverments-network_report_02.pdf
GSS整備の背景・目的
GSS整備の背景に、行政におけるICT環境の分断と非効率性が挙げられます。これまで各府省庁が独自にICT環境を構築しておりシステムやネットワークが統一されておらず、導入される製品も様々であるため利便性が異なることや、運用・保守コストが高止まりする、セキュリティ対策にもバラつきがありました。また、災害時の業務継続や、巧妙化するサイバー攻撃への対応力を高めるための強靭なネットワーク基盤が求められています。これらを各省庁が独自に実現可能性を含めて検討するのではなく、デジタル庁にて統一的な基盤としてGSSの目的となっています。さらに、GSSでは各府省庁におけるLAN統合による単なるネットワークの統合に留まらず、職員ID・デバイス・アプリケーション等の一元管理や職員認証サービス(GIMA)との連携等、情報セキュリティとガバナンスを統一的な基盤で管理する実践的な取り組みにより、人事異動等に伴う情報資源の適切な管理を効率的に進めることも目的となっています(注2)。
(注2)「デジタル社会の実現に向けた重点計画」令和5年6月、
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/5ecac8cc-50f1-4168-b989-2bcaabffe870/b24ac613/20230609_policies_priority_outline_05.pdf
GSSによる基盤システムの構成
官公庁の基盤システムにおける構成要素の多くがGSSにて提供されます。一方で、これまで基盤システムにおける機能のすべてがGSSにて提供されるわけでありません。前述した基盤システムの構成要素がGSS移行後においては以下のように実現されています。
GSS移行による効果と改善点
デジタル庁によりGSSが整備され各省庁が移行を進めていくことで、移行時における負荷は生じますが、官公庁職員は統一された基盤を利用することで一定以上のサービス品質による行政業務・事務処理を行うことができるとともに、情報資産を統一的に管理することにより、異動時においても同様の環境にて行政業務を推進できるものとなります。また、基盤システムとしてもデジタル庁が整備・運用保守までを担うことで、基盤として求められる環境やセキュリティ対策を維持することができ、更には各省庁におけるシステム管理に要する負担軽減が少なからず期待できます。
これらのとおりGSS移行により従来の基盤システムが抱えている課題の多くは改善が見込まれますが、今後更に官公庁職員における生産性を高めていくため、利便性の向上や業務支援機能を拡充していくことが必要ではないかと考えます。
3. 今後の基盤システムに求められるものとは?
今後は、官公庁における基盤システムのGSSへの移行が進められていくなか、GSSへの移行に加え、デジタル庁がGSSもしくは異なる施策として官公庁及び地方自治体が最適に業務を遂行できる環境として、下記の3点についても整備していくことが求められるのではないでしょうか。
1)ナレッジベースの整備
2)AIの利活用に向けた環境整備
3)官公庁間におけるコラボレーション促進の仕組みづくり
1)ナレッジベースの整備
官公庁における職員は数年で異動するケースが多く、また配属先での担当業務に対する知識や能力にバラつきがあります。そのため、下記①~➂に掲げるような課題が生じ、新たに配属された環境においてすぐに高いパフォーマンスを出すことが難しい場合があるため、ナレッジベース導入によりこの課題の解決が期待できるのではないでしょうか。また、ナレッジとして収集・整理した情報については、2)に示すAIの利活用においても活用することで、行政業務の効率化に期待できるのではないでしょうか。
①情報の属人化と暗黙知の継承
- 担当者ごとに異なる記録様式(紙・Excel・Accessなど)で保存しており、統一されていない
- 異動や退職により、業務ノウハウが失われるリスクが高い
- 暗黙知(経験・勘・人脈など)が形式知として共有されにくい
②職員の意識と文化的障壁
- 「課内や知っている範囲で共有できれば十分」と考える職員が多く、庁内全体での共有意識が低い
- グループウェアやナレッジベースの活用に対する理解・関心が職員間でばらつきがある
③技術的・運用的な課題
- システムの習熟者が異動すると、メンテナンスが困難になるケースがある
- 権限設定や承認ルートなど、官公庁特有の業務フローに合わせた設計が必要
- クラウド導入に対するセキュリティ・ガバナンス面での懸念
2)AIの利活用に向けた環境整備
政府におけるAI施策
内閣府は2018年に統合イノベーション戦略推進会議を設置し、翌2019年、「人間中心のAI社会原則」を策定しました(注3)。AIは少子高齢化・人手不足・過疎化・財政支出増大等・成熟型社会である日本が直面する社会課題解決の鍵となる技術であり、AIに関わる技術自体の研究開発を進めると共に、社会システム、産業構造、ガバナンス等あらゆる面で社会をリデザインしAI を有効かつ安全に利用できる社会を構築すること、すなわち「AI-Ready な社会」への変革を推進する必要があるとしています)。
(注3)内閣府、「人間中心のAI社会原則」(平成31年3月29日 統合イノベーション戦略推進会議決定)、https://www8.cao.go.jp/cstp/aigensoku.pdf?1707448752994
経済産業省と総務省は2024年、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を策定しました。生成AIの普及を始めとする近年の技術の急激な変化等に対応するため、「人間中心のAI社会原則」 を土台としつつ関連する既存の3つのガイドラインを統合したもので、今年2025年3月に「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」が公表されました(注4)。
(注4)公表ページ:「AI事業者ガイドライン」掲載ページ(総務省)、https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/ai_network/02ryutsu20_04000019.html
AI事業者ガイドライン(経済産業省)、https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/ai_shakai_jisso/20240419_report.html
そして今年2025年5月、デジタル庁は経済産業省、総務省等と協力して、政府情報システムの整備及び管理に関して遵守ルール「行政の進化と革新のための生成 AI の調達・利活用に係るガイドライン」を定めました。これは、AI関連技術の発展とAIの活用の官民における急速な進展を受け、政府の様々な業務への生成AIの利活用促進とリスク管理を表裏一体で進めるために検討し決定したものです。
行政機関におけるAI利活用の現状
デジタル庁では、職員の業務効率化を目的とした生成AI利用環境(プロジェクト名:源内(げんない))において、職員が業務において生成AIの利用が可能な環境を整備しています。さらに、2026年度以降には各府省庁への展開も視野に入れ検討が進められています。
また、デジタル庁ではAIの業務活用も進められており、対話型AI、文書作成や、要約、翻訳といった汎用的な利用から、国会答弁や公用文といった官公庁職員に特化した内容を取り扱う業務にも活用されているそうです。
経済産業省は令和6年度、行政事務の高度化に生成AIが資するかの検証を行いました。それにより、翻訳や要約、コード生成といったユースケースについて業務高度化に資する可能性が高いが、「回答生成の質がいかに高いか」が評価軸となるので、法律関連の業務や所管制度に関する問い合わせ対応には実用までまだ課題があるとの検証結果になりました(注5)。
段階的なAIの導入
GSSによって各府省庁の業務実施環境が統合されてきているため、AIの利活用においても統一的にツールの導入を進めることが可能となっています。進化が早く汎用的なパブリッククラウドサービスの利用と、官公庁の業務に特化した専用ツールやエージェントの使い分けを整理していくことが重要となります。
AIの導入に向けては、様々な機関にて行われている検証結果も踏まえ、まずは翻訳や要約などある程度の表現の自由度が許容され、かつ作業工数を要する業務からAIの導入を進めることで行政業務をより効率化させ、それにより生み出された時間を利用して更なる効果を生むことが期待できるのではないでしょうか。
3)官公庁間におけるコラボレーション促進の仕組みづくり
これまで官公庁ではそれぞれ独自に基盤システムを整備していることから、省庁間におけるコラボレーションやコミュニケーションは希薄であり、やり取りにはメール等を活用するケースが多くなっています。しかし、官公庁の基盤システムがGSSへ統合されつつあるなか、GSSではMicrosoft 365も導入されていることから、省庁間におけるコラボレーションやコミュニケーションを促進していくための仕組みが期待されます。これにより業務の効率化だけではなく、各官公庁に所属する職員が幅広くコミュニケーションを図っていくことが可能となり、新たな効果を生み出すことが期待できるのではないでしょうか。加えて、GSS移行後にはGSS情報ポータルによる職員IDの一元管理により、府省間の異動時にもシームレスにコラボレーション環境を継続利用することが期待されます。
GSSへの移行は官公庁の基盤システムの転換点です。 単なるシステム統合にとどまらず、ナレッジ共有、AI活用、 コラボレーション文化の醸成により、真の「デジタル行政」 実現が期待されます。各府省庁の積極的な取り組みとデジタル庁のリーダーシップが今後の鍵となると考えられます。






