本稿では、日本の経済成長を最終目的としつつ、現在の各産業の持ち合わせている収益獲得の源泉の特性を明らかにし、その特性に基づいた産業政策の打ち手を整理します。
1. 産業の経済構造を知る目的
2024年現在の日本のGDP成長率は+0.1%と、対前年比でほぼ横ばいである。その場合、現役世代の負担は同様に増大していくことが予想される。現在の社会保障制度はその維持が非常に困難であると言わざるを得ない。
また、現在の日本では、将来世代への負担の先送りにより世代間格差が生じ、経済的な分断が進んでいる。その解決策については、限られた経済的パイをどのように分配するかということばかりが議論され、反面、この経済的パイを拡大することでゼロサムからプラスサムに意識を変えていくことが議論されることは少ない。いわゆる成長戦略である。
これは、私個人の仮説だが、コンサルティング会社がクライアントである企業のコスト削減には貢献できる可能性があるものの、売上拡大に貢献できる可能性が低いことと同様に、成長戦略は分配戦略よりも難易度が高く、思考の外に置きがちである。本来は、その成長戦略に挑戦するために、現在の産業の経済構造を俯瞰的に可視化し、その経済構造の特性に合わせて政策としての打ち手を整理すべきと考える。
そこで、本稿は、日本の経済成長を最終目的としつつ、現在の各産業の持ち合わせている収益獲得の源泉の特性を明らかにし、その特性に基づいた産業政策の打ち手を考察するインプットとすることを目的とする。
2. 日本の産業理解(グローバル製造業とローカル非製造業)
冨山和彦氏の著書『なぜローカル経済から日本はよみがえるのか』では、グローバル製造業の(G)の経済圏とローカル非製造業の(L)の経済圏を「生産性」の観点から比較することで、生産性の低いL経済圏への打ち手による経済成長の可能性を論じている。
同書によれば、非製造業かつ中小企業は、企業数では約9割、従業員数で約6割を占め、一方付加価値額で約4割5分にとどまっており、企業数や従業員数に対して付加価値額の低さ、つまり「生産性が低い」ことを示されている。
非製造業は、いわゆるサービス業など物理的にその地域のマーケットサイズに依存したビジネスモデルが多く、人口減少と共にそのマーケットサイズは小さくなっていく。かたやプレイヤーが中小企業を中心に多数存在していることから、今後はM&Aの促進などにより規模の経済性効果やノウハウ、デジタルによる知識集約化を図っていかなければこれ以上生産性の向上は見込めない領域だ。
この物理的に地域に依存するビジネスモデルを概念化すると、ビジネスは「創って」「作って」「売る」の各基本構造で構成される。そのうち、「作って」と「売る」が物理的に依存関係にある。この依存関係があるビジネスはマーケットを地域の人口サイズに依存することとなるが、依存関係がないビジネスは域外にマーケットを求めることができる。両者の違いは売上の上限の有無を差し、当然だが後者の方が成長の余地は大きい。
3. 労働集約型と知識集約型
労働集約型とは事業活動の主要な部分を労働力(供給量)に頼り、売上の規模が供給量に依存するビジネスモデルを指す。例えば、人材派遣業やSIなどの工数の投入量に対して単価を乗じて売上を形成するビジネスモデルなどがそれにあたる。また、前述の非製造業なども供給量に売上が依存するものが多い。小売業、観光業、医療・介護、地域交通(タクシーなど)もその典型である。これらのビジネスモデルでは、供給量と売上が正比例の関係になる。
一方で、知識集約型とは頭脳労働や知識労働が事業の中心となるビジネスモデルを指す。専門知識を必要とする金融業、研究開発などが知識集約型産業であり、売上の規模は供給量に依存しない。そしてデジタルの発展により様々なデジタルサービスが出てきているが、これらのビジネスはデータやプラットフォーム自体に価値が生まれる。赤字を掘りながらユーザーを獲得し、そのユーザーに対して様々なサービス提供を行うことで課金や広告などで収益を獲得するビジネスモデルは、労働などの供給量と売上の依存関係がなく、指数関数的な売上成長が可能である。
4. 産業の経済構造の俯瞰と打ち手の考察
以上のように、「創って」「作って」「売る」の物理依存の有無と、「労働集約型」か「知識集約型」か、によって、それぞれビジネスとしての経営戦略の打ち手も異なるし、産業政策としての打ち手も異なる。
物理依存の有無を縦軸、労働集約か知識集約を横軸としたのが下図である。縦軸は上に向かうほど「創って」「作って」「売る」の物理依存がなくなる。横軸は右へ向かうほど知識集約型となる。
図に示す4象限のビジネスモデルについてそれぞれ見ていく。
D象限
D象限は製造・サービスとマーケットが物理的に依存し労働集約的なビジネスモデルで、代表的な産業として小売業、接客業が挙げられる。ビジネスを成長させるためには、①M&Aによる経営効率の向上、デジタル化による効率化、非競争分野の共通(同)化などによりD象限内で規模を拡大、②域外展開、売値(単価)アップ、大規模化などによりB象限に進出、③収集データの二次利用サービスの開発、あるいはDXを通じた業態変容によりC象限に進出することが考えられる。
C象限
C象限は製造・サービスとマーケットが物理的に依存し知識集約的なビジネスモデルで、代表的な産業として教育・学習支援業、法曹業などが挙げられる。ビジネスを成長させる打ち手として、①更なるデータ活用投資、更なるDX投資などによりC象限内で規模を拡大、②域外展開、他拠点化、売値(単価)アップ、大規模化などによりA象限に進出することが考えられる。
B象限
B象限は製造・サービスとマーケットが物理的には依存せず労働集約的なビジネスモデルで、代表的な産業として製造業、運輸業が挙げられる。ビジネスを成長させるためには、①高付加価値化、売値(単価)アップによりB象限内で規模を拡大、②収集データの二次利用サービスの開発、あるいはDXを通じた業態変容によりA象限に進出することが考えられる。
A象限
A象限は製造・サービスとマーケットが物理的には依存せず知識集約的なビジネスモデルで、代表的な産業として金融業、学術研究が挙げられる。この象限内でビジネスを成長させるためには、海外展開、プラットフォームか、シナジーのある新規事業の開発やCVC(Corporate Venture Capital)が考えられる。
B、C、Dそれぞれの象限では、打ち手によりAの象限に近づけていくことがビジネス成長ひいては経済成長へつながる。
5. 経済成長のために
最後に、経済成長を実現するにはゼロサム思考からプラスサム思考へと意識を変換していくことが重要であると、前述でも触れた。産業の経済構造から俯瞰的に打ち手を導き出す本稿の考察は論理的思考から合理的に整理をしたものとなる。他方、本当の経済成長のためには、この合理的な面に加え、日本人特有の条理(道理)に基づく意識変容も重要となるのではないかと考えている。つまりゼロサム思考により成功者の足を引っ張り、低い方への引力を効かせる国民的意識を変えていくことが最終的には経済成長への最大の障壁となると考えているが、その点については別途考えを纏めていくこととしたい。






