
グラビス・グループの事業会社グラビス・アーキテクツの本社・事務所がある全国4カ所で実施した出版記念イベントとしては第2回目の開催となりました。イベントのタイトルは「自治体DXリアル語り場~現場職員の悩みと知見でつくる明日の公共~」。最初にゲストコーディネーターの2人がそれぞれの自治体の取り組み事例を紹介した後に、古見や参加者が発言・質問する形式で議論を深めました。
デジタル人材の確保は
全国の自治体の共通課題
勤務先の広島県からこの日駆けつけた村田さんは元々兵庫県尼崎市で28年間情報部門に在籍したITの専門家です。2022年4月から広島県で県内の各市・町の行政ネットワークや情報セキュリティの整備業務に携わっているほか、同県三原市と江田島市の各CIO補佐官も兼務しています。

村田さんが広島県に転身することになったのは、オール広島の視点で不足するデジタル人材を確保するリーディングケースの取り組みによるものです。1年後には「DXShip(デジシップ)ひろしま」として制度化し、同県と県内市町でDX人材を共同で採用・育成・活用するための新たな枠組みのなか、村田さんのように県で採用された後に、県内の市・町にも配属されるというケースもあれば、市で採用した職員を県に配属する事例も出ています。
村田さんはこの日、長いデジタル部門でのさまざまな経験をエピソードとともに披露。自身の「一流の評論家になる前に三流の実践家であれ」という座右の銘も紹介し、会場で参加者から相次いだ質問にも「業務を常に改善する意識を忘れず、まず取り組んでみましょう」などと答えていました。
京阪神に限らず全国の自治体が苦労しているデジタル人材の確保については、このイベントでも関心が集まりました。
デジシップひろしまの効果と課題について質問された村田さんは、まず広島県内の自治体に配属されたデジタル人材がオンライン会議やチャットを駆使してさまざまな情報共有がスムーズになった点をメリットとして挙げました。それぞれが各自治体で気づいた課題やベンダーからの情報などを共有し、各職員の専門家としての分析や評価なども加えることで、ノウハウ・知見がたまってきているということです。

一方で、配属された職員のポジションや立ち位置が自治体によって異なることで、デジタル戦略の策定や実行のみならず、日々の細かい業務に追われている人もいるということです。村田さんは「広島県内の自治体のDX推進という本来の目的から少し薄れている部分も一部あり、個人として課題に思っている」と語りました。
行政のデジタル化、住民の周知・利用に課題感
豊中市の伊藤さんは市のデジタル戦略課長を2020年から4年間務め、同年9月に発出された「とよなかデジタル・ガバメント戦略」の策定などに携わりました。これは当時の菅政権によるデジタル庁創設より前に策定されたもので、戦略に続く行政手続きのデジタル化など実際の施策についても京阪神の中核自治体の中でいち早く実行された経緯があります。

例えば、行政手続きのオンライン化は2023年3月までに100%達成。住民・事業者とやり取りする52種の手数料はすべてキャッシュレスで決済できるようになりました。市役所内のペーパーレスも進み、紙の資料が配付されない会議などが今は当たり前になっています。
伊藤さんは自己紹介に合わせて、現在注力する「とよなかデジタル・ガバメント戦略2.0」などについても紹介。この戦略では「市民がデジタルの恩恵を享受して暮らしやすさを実感・共感できる取り組みを進める」とある一方で、伊藤さんは「(市民にDX化された手続きなどを)なかなか使っていただけない、知ってもらえない実情がある」という悩みも打ち明けました。
豊中市では「プッシュ型」でデジタル化の取り組みを市民に紹介しようとしています。伊藤さんは「市のDXだけでなく、実際に市民に『ユーザー』になってもらうことが大きな課題。来年度までに予算措置もして何とか改善したい」と話しました。

デジタル人材、幅広いキャリアパスを示して育成を
ゲストコーディネーターの2人の話を受けて、会場からは質問や発言も相次ぎました。
兵庫県のある市の担当者は「市の情報部門ではここ3年で5人も退職者が出た。デジタル人材をどう定着させるかという大きな課題がある。どうすればいいのか」と質問がありました。
これに対して村田さんは「今の時代は辞めないでと言っても辞めるものは辞める。それは仕方がない。それよりも魅力的な職場にして、外部にもその魅力を出して、次のいい人材を採用するくらいの思いでやればいいのでは」とアドバイスしました。
古見からも、民間企業であるグラビスでは、企業としてのミッションやビジョンを明確に共有したうえで、採用した人がそれらと自身のライフテーマを重ね合わせて、より長く働きたくなるような動機づけを重視しているなどと紹介しました。

また古見からは、民間も自治体も人材育成を研修だけに頼るのでは無く、人事部門がイニシアティブを取って採用から評価、異動までを一貫してしっかり人材育成していくことが大切だと指摘。自治体にはデジタル関連のポストが少ないことも挙げて、「デジタル系の専門職をもっと設けて、若い職員に幅広いキャリアパスがあることを示さないといけない」と提言しました。
参加者からはさらに「首長や議員、定年間際の幹部職員は、時間がかかる人材育成や組織改革に着手しようとしない。上の方々をどう動かしたらいいのか」といった悩みも寄せられました。
これについて伊藤さんは、豊中市が2020年に市長名で「とよなかデジタル・ガバメント宣言」を発出した経緯に触れ、「市長を巻き込み、トップダウンの形にすることで、財務部門も重点予算として扱うことになり、全庁的に取り組まざるを得なくなる。(人材育成や組織改革も)しっかり最初から打ち出すことが大事」とアドバイスしました。

グループセッションで議論、自治体の“横”の連携も
続いてのセッションでは「デジタル人材の採用・育成・活用」と「行政サービスのDXと住民・ユーザー」をテーマに、参加者がそれぞれ二つのグループに分かれて座談会形式で語り合いました。
参加者からはそれぞれのグループで、「首長に選挙で票にならなくても、組織改革にどうやったら取り組んでもらえるのか」「市民に行政サービスをオンラインでやってもらえるよう効果的に広報するにはどうすればいいのか」などと、突っ込んだ質問や発言が相次ぎました。
「デジタル人材」のグループには村田さんと古見が、「行政サービスとDX」のグループには伊藤さんとグラビス・アーキテクツ大阪事務所長の清水元幾がそれぞれ加わり、議論をリードしながら参加者からの質問に答えたり意見交換したりしていました。
その後も、同じ会場でゲストコーディネーターの2人と参加者らを交えた懇親会が行われ、「自治体の組織改革」や「行政のデジタル化」などを話題に、熱い会話が繰り広げられました。
