事例・対談でわかる
社会問題の解決アプローチ

自治体におけるEBPM推進のポイントとは?

自治体がEBPMを推進している様子

Share

  • X
  • LinkedIn
 自治体における政策立案の手法として、経験則でなく、合理的根拠に基づき立案するEBPM(エビデンス・ベースド・ポリシー・メイキング)が注目されています。自治体における政策の高度化や効率的な行政活動の実現に向け期待されるEBPMですが、推進にはいくつかの壁も存在します。本記事では、自治体におけるEBPM推進の課題とポイント、解決施策について、事例を交えて解説していきます。

自治体におけるEBPM推進の意義

 EBPMとは、科学的根拠に基づき政策を立案する手法のこと。根拠があいまいな勘や偏った経験(エピソード・ベース)から政策を立案するのではなく、地域のデータや統計情報などに基づき(エビデンス・ベース)合理的に考えていくことで、より成果の生まれやすい政策を打ち出すことを目的としています。国においても、政策効果の測定に重要な関連を持つ情報や統計等のデータを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資するものとしてさまざまな取り組みをすすめています。

 自治体におけるEBPMの活用は、職員数や歳入が減少している中であっても、成果が期待できる政策へ優先的に人・資金などのリソースを配置するといった、より効率的な行政活動の実現にも寄与します。また、数字の裏付けがはっきりしている政策であれば、住民や議会に対して根拠をもった説明をすることが可能になります。

 ただし、それらを進めるためには、エビデンスとなるデータが必要です。特に自治体が抱えるデータの収集は重要な課題であり、その検討も求められます。

 データの収集と並んで「どう利活用」するか、も大きな課題です。この点については、海外などの事例も参考にしつつ、トライ&エラーを繰り返していくことが望まれますが、その推進にむけて、行政ならではの課題もあります。

EBPMの浸透に向けた2つの課題

【課題①】既存の様式や評価プロセスの見直し

 EBPMの第一歩として、ロジック・モデル*の作成から着手する自治体は多いと思います。しかし既に導入されている政策評価などの作業との重複や負担感が発生してしまい、ロジック・モデルを作成することが目的化しているケースが散見されます。

 EBPMを浸透させるためには、新たにロジック・モデルを理解し、作成していくのではなく、ロジック・モデルの要素(政策の目的・現状・課題・手段・効果等の整理)を既存の政策評価の様式などに反映し、現場職員の負担感を最小限に進めることが効果的と考えます。


*ロジック・モデル
=政策の実施により、その目的が達成されるまでの論理的な因果関係を明示したもの

【課題②】データ分析を実施する機会・経験の創出

 政策の枠組み(目的・現状・課題・手段等)を整理【課題①】し、その政策をエビデンス・ベースとするためには、もう一段高いハードルがあると考えます。

 現状、自治体においてデータ分析を得意とする職員は非常に少ないのではないでしょうか。

 データ分析を実践する機会・経験の不足から、データ分析で何が出来るのか、何が分かるのかがわからず、EBPMを推進するための課題や必要な環境(データ、ツールなど)がなかなかイメージできないのではないかと考えます。

カギは現場職員を巻き込む仕組みづくり

 自治体でEBPMを推進するためには、首長などトップの牽引力が必要になると共に、現場職員が主体的に政策立案に取り組めるような仕組みづくりが重要だと考えられます。

 たとえば、伴走型支援により、職員が一連のEBPMのプロセスを経験することが効果的です。初めは、特定の分野における地域課題の解決や業務効率化など、小規模な政策立案から取り組みましょう。現場担当者の思考を整理するための「壁打ち」の相手役や資料作成のサポートなども有効と考えます。

 また、ロジックの整理やデータ分析・効果検証などのサポートをしてくれる外部の専門家の活用も有効ではないでしょうか。


 さらに、伴走型支援による政策立案の体験談や成果(市民へのサービスが画期的に向上した、業務が大幅に効率化した、など)を職員・部門間で共有する機会を設けることで、職員の興味・関心のきっかけを作り、よりEBPMを浸透させることができると考えます。

【事例で解説】EBPM推進に向けた有効な施策

事例①|自治体と連携した実践的な政策立案スクール(産学官民連携)

 職員に政策立案のノウハウを教育するための伴走支援の例として、「九州大学産学官民連携セミナー 地域政策デザインスクール」があります。

 「九州大学産学官民連携セミナー 地域政策デザインスクール」は、「自立的な地域経営を担う高度人材の育成」と「社会の課題解決に貢献する教育・研究」を目的に、運営されています。受講生は、グループワークや自治体へのフィールドワークを通して、政策立案のプロセスを学ぶことができます。自治体と連携していることで、地域課題の解決に直結する実践的な政策立案に取り組むことが可能です。

事例②|データを用いた政策立案ワークショップ(茨城県つくば市)

 また、EBPM推進に向け、データ利活用から政策を立案するプロセスを職員に経験してもらうことも重要です。

 茨城県つくば市では、将来的に全職員にデータ利活用の知識を身につけさせることを目的とし、GIS(地理情報システム)を利用した課題解決ワークショップを実施しました。その後は段階的な研修を設け、「理解の浸透」を目的にデータ利活用の重要性や国の指針などを説明しています。次のステップとして「データ利活用のためのデータへの理解、および加工ができるようになること」を目的とし、現在も研修を行っています。同市では、毎年150人程度が研修を受講しており、令和12年度には同市所属の職員全員が受講を終える予定です。

 研修の結果、一部職員の間で「GISを活用し、買い物支援の移動販売車を走らせるルートを検討する」などの動きが出てきており、データを利活用した職員の主体的な政策立案が実現しています。

 今回の記事では、自治体におけるEBPM推進の課題と解決施策について事例を交えながら解説しました。これからの自治体には、伴走型支援やデータ利活用の研修などEBPMを実践的に学ぶ仕組みづくりが必要です。今後、自治体におけるEBPMの普及により、より効果的な政策立案や効率的な行政運営が可能な自治体が増えていくことが期待されます。