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社会問題の解決アプローチ

日経グローカル連載記事
DXを生かす自治体経営 第2回
『行政職員に求められるスキル 自ら問いを立て解決へ導く力』

自治体DXのイメージ画像

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地方創生・地域経営専門誌『日経グローカル』2023年10月16日号より、GLAVISグループおよびグラビス・アーキテクツ代表・古見が連載をスタートしました。本稿では「DXを生かす自治体経営」をテーマとして、6回の連載を予定しています。
第2回では、公共サービスの供給力を維持するために、行政職員に求められるスキルと、その実現に必要な組織的な取り組みについて提言しています。
※本記事は日経グローカル(2023年11月20日号)に掲載された記事を転載しています。

前回は人口が減少し、技術の変化が激しい現代における行政の役割について概観した。今回は公共サービスの供給力を維持するために、行政職員に求められるスキルと、その実現に必要な組織的な取り組みについて提言したい。

問題解決・プロジェクトマネジメント型へ

 高齢化をはじめとする社会問題の多様化(=公共サービスの需要増加)と生産年齢人口減少による行政職員の減少(=公共サービスの供給力低下)で、相対的に公共サービスの需給バランスが崩れていくことは避けられない。今後はサービス維持のため、企業や市民を巻き込むことが求められる。そのため、行政職員は、公共サービスの「創発」と企画実行マネジメントを行う「問題解決・プロジェクトマネジメント型人材」と「福祉などの専門家人材」の2種類の属性が必要となっていくと想定している。今回は前者について掘り下げる。

 これまでの行政は、定められた法令に基づき、正確に公共サービスを提供する、つまり「手段を正しく実行する力」が重視されてきた。これは、商品の正確かつ安価な大量生産が求められた高度成長期の産業構造に似ている。その後、産業界ではグローバル化やデジタル技術の発達により、破壊的イノベーションが多発した。特にデジタルを活用した新しいビジネスモデルは、人々の生活に大きな変化をもたらし続けている。この現象は、これまで通りのやり方が通用しなくなる破壊的イノベーションが、今後も頻繁に発生するとともに、変化を読み取って新な価値を考える力が求められることを指す。



 行政においても、技術や社会の変化が激しい今日、社会問題の多様化(=公共サービスの需要増加)や、ルールが現実に追いつかない事象や例外事象が多発している。そのような環境では、自らの力で変化を読みとり、問題を見つけ、打ち手を講じる力が求められる。つまり「問いを立て解決へ導く力」だ。「手段を正しく実行する力=手続き処理型」は今後、人工知能(AI)やロボティクスなどにより代替されていくだろう。

 「問いを立てる」とは、従来のやり方を否定し、新たなアイデアを創出することだ。年功序列、減点主義の行政では、このような姿勢を持つインセンティブ(誘因)が働きにくく、問いを立て解決へ導く力=スキルが育ちにくい。 問いを立てることは、そもそも何が問題で、その原因は何で、何をすれば解決するか、という課題を設定する力だともいえる(図1)。

問いを立て解決に導くには

 問題とは、あるべき姿と現状のギャップだ。問題を発見するには、現状を正しく理解し、あるべき姿が何であるかを考え、理解する力が求められる。ここで適切に問題を発見できるかが、問題解決の1つ目のポイントだ。



 あるべき姿を考えるには、日々の仕事の方法や存在意義を疑い、他の産業で類似の特性を持つ仕事と比較し、最新技術の知識をもとに類推することが求められる。現状の理解は関係者によって異なる。対象となる業務などを行う主体者や管理者、ユーザー(顧客)、評価する第三者などの立場に立ち、現状を複眼で立体的に捉える必要がある。

問題を明確にし、原因を分解・深耕

 問題が明確になったら、その原因をWhyツリー(原因究明ツリー)で分解、深耕する。この分解は可能な限り、MECE(漏れなく、重複なく)に思考する。Whyツリーができると、「ここを潰すと多くの問題が解決できる」という大きな原因を発見できる。その原因を潰すために取り組むべきことが課題となる。筋のよい原因と課題を設定できるかが、問題解決の2つ目のポイントだ。  


 課題を設定し、その実行に向けた具体的な活動アクティビティ)に落とし込んでいく、そしてアクティビティの集合体である課題を実行する際の目標や期限、前提や制約、体制などを整備し、成功に導く力がプロジェクトマネジメントだ。

問題解決のプロセスを活用

 ここで、筆者が検討した、ある自治体の例を挙げたい。その自治体は、児童虐待による痛ましい事件が発生し、再発防止のために第三者による原因調査などが行われた。調査報告書には、児童相談所の業務の煩雑さや、属人化による組織としての活動の難しさが原因の一部として挙げられていた。筆者はこの部分における対策について相談を受け、図2のようなプロセスを用いて問題解決に向けた取り組みを思考した。行政側の問題を発見し、その原因とその一部を解決するための課題設定とアクティビティを展開した。

問題解決思考プロセスの参考例

 ここまで述べた問題解決プロセスとプロジェクトマネジメントを個々の行政職員が行うために重要なポイントがある。それは自らが主体となってプロセスを実行することだ。問題を発見するには、現在の仕事のやり方を疑うことから始まる。あるべき業務はどのようなあり方か、それに対して現状はどうか、ギャップは何か。常に現状を建設的に改善する志向性を持つことが重要だ。



 個人の考えや行動を改善するには、その行為にインセンティブがなければ機能しない。行政組織は現状を改善する提案を行う個人を尊重する文化と、それを評価に生かせるような人事制度をともに考えていくべきだろう。デジタル技術の発達により、業務のありようは急速に変化している。だからこそ、「その技術はそもそも何のために活用するのか」という主体者たる行政職員の問いを立てる力が求められている。